
「上へ」(ガレ場のニホンカモシカ) 2012 イラストボードにアクリルガッシュ
偶蹄目ウシ科、基本的に単独でくらしオスにもメスにも短く鋭い角がある。今でこそ「山岳の動物」というイメージが強いが、もともとは日本人の生活に身近な里山に生きる動物のひとつだった。
ヒヅメはやや立ち上がり柔軟でよく開くので、岩場のちょっとした突起をうまく挟みながら歩くのが得意だ。シカに比べて頑丈な四肢は体にほぼ垂直に下へ伸び、これまた比較的短い胴と首も手伝って、狭い岩棚でバランスをとってたたずんでいる姿をよく見かける。
彼らは敵に追われるとこうした岩場の崖に逃げ込み、敵が地団駄をふんでいるのを悠々と眺めたりする。昔の猟師は、そんなふうに余裕たっぷりで油断しているカモシカを、いとも簡単に鉄砲で仕留めることが出来たという。
カモシカの肉はやわらかく適度に脂が乗り風味も豊かで、日本の野生獣の中で一番美味らしい。
角は様々な生活必需品(俵編み用の鈎針・釣りの疑似餌・灰かき棒など・・・)に加工され、毛皮も特に冬期の豊かな毛量と毛質のものは一級品で高い値がついた。
そのため明治初期の頃から密猟が絶えなくなり、カモシカはその個体数を徐々に減らしていった。
絶滅寸前まで追い詰められ、ようやく昭和9年に天然記念物に、同30年に特別天然記念物に指定されてからは、その生息数も今では往時の頃に迫る勢いだとささやかれるまでになっている。
もちろん、今カモシカは狩猟獣ではないので捕まえたら罰則を受ける。毛皮も不当所持は許されないので、それなりの証明書が必要になる。
ただ、春先の山岳地帯では雪崩等に当たって死んだカモシカが雪解けの下から姿を出すことがよくある。
そんな時は見てみぬふりをして通り過ぎるか、さもなくば近くの役所に届け出て、地域によっては頭骨や洞角くらいなら「拾得物扱い」にしてもらえるかもしれない。